フランス革命についての省察3
- scallopshcolarship
- 4月28日
- 読了時間: 7分
フランス革命についての省察
エドマンド・バーク 著 二木 麻里 訳
光文社 古典新訳文庫 2021年第2刷
**古典を読もうキャンペーン中** 読んだ箇所
P88~161 3 フランス国民議会の実態
P162~229 4 フランスとイギリスの文化の伝統
キーワード:
肯定的に用いられている言葉:自然、必然、財産の安定、制度の安定、尊厳という感覚、名声と言う資産、教育と習慣、権力の抑止、実践的、経験、生まれつきの感覚、騎士道、紳士の精神と宗教の精神、古来の風習
否定的:幾何学的、算術的、形而上学、抽象的な原理、自然権
国政を担うにふさわしい性質・特徴:徳、叡智、軍事・外交に通じた人、本来の土地所有階級、人類の知見にかかわるようなことや複雑な問題についての経験が必要なことに対応できる人、国内外の利害が錯綜しているなかで総合的で統一的な視野が持てる人、長期的な展望
ふさわしくない性質・特徴:邪悪な欲望や俗悪な名誉心、無学な人、機械的に動く補助的な立場の人、地方のことしか知らない人、社会的評価の低い人、狭い世界の中でおなじ仕事を繰り返す専門職の人、自分の財産を増やしたいという野望しかない人
P90「やみくもに導かれたくないのであれば、みずから行動する資質はなくても、判断をくだせる資質はもとめられます。」
同「それぞれの生活状態において安定した財産をもち、ふさわしい教育を受けていて、自由に理解を広げていけるような習慣がそなわっていることがたいせつになります。」
P102「公共愛の第一の原理、その芽ばえとは、社会のなかで自分が属する小さな共同体を愛し、そのグループの人たちを愛することにあります。それはやがて祖国愛や、さらには人類愛へと進んでいく長い連鎖の最初の環なのです。」
P107「次の世代の貴族は、職人や農民や両替商や高利貸し、ユダヤ人に似てくると思います。またこれらの人びとが貴族の仲間入りをすることがつねになり、ときには主人になることでしょう。」
P108「水平化しようとする人びとは、ものごとの自然な秩序を変えて、ねじ曲げてしまうだけなのです。」
P113「生まれというものに対して、適切に規制された卓越性をみとめること(…略…)、また重視するだけではなくその長所をみとめることは、不自然でも不公正でも無分別でもありません。」
P133「人が自分を統治するという人間の全権からなにかを差し引いて、この全権に人為的で実定的な制限をさだめるという痛みをへた瞬間から、統治のすべての組織は人間のさまざまな利害をどう調整するかという合目的性の問題に直面します。」
P135「長年にわたって社会の共通目的を実現するうえで十分な力を発揮してきた構造物を破壊しようとするとき、…略…その構造物を再建しようとするときは、どこまでも警戒しなければなりません。」
P188「わたしたちは神を畏れます。畏敬をもって国王を見上げます。愛情をもって議会を見上げ、礼をもって為政者を見上げ、崇敬をもって聖職者を見上げ、尊重をもって貴族を見上げます。なぜでしょうか。それは、こうした観念が心に浮かぶときは、そんなふうに感じられるのが自然だからです。」
感想:
初めはバークの主張に根拠が薄いように感じて、納得できなかった。身分制の肯定と不平等についても“それが自然なこと、道徳的なこと”としか言ってないように見えて、現代の感覚から見て疑問に感じることが多かった。ただ、読み進めるうち、時代背景なども考え合わせると、それも一つの考えとして妥当かもしれないなぁと思い始めた。
一例として、バークは弁護士をとても低く評価している。「合法的詐欺師」とか、人の財産の所有を不安定にすることで生計を立てているとか、弁護士から国民議会の議員になった人たちについて「無知と猪突猛進と思いあがりと強奪欲」とか書いている。当然、政治家にふさわしくないグループに分類している。その理由は、狭い世界の利害のことしか知らない、自分が成り上げることしか考えていないからだと。国家に関わることを決める人たちっていうのは、そういう田舎の専門職とは教育や見識、家柄、財産などなどのレベルが違うのだと。今の日本では弁護士って相当賢いしお金も稼いでいる部類だから、初めて読んだときは「バーク、なんなん。貴族はそんなに偉いの?」と思った。でも確かに、弁護士であれその他諸々の労働者であれ、自分の仕事と生活のことでほとんどの時間を消費している人間が、国家運営について深く知ったり考えたりする時間ないでしょ?と言われると反論できない。
自分の人生が不安定、もしくはもっと財産が欲しいと思っているような人間が権力を得たとき、国家国民のことを何よりも優先して決断できますか?という疑問がわくのはしかたない。
バークは不平等を肯定する。財産の本質は不平等で、莫大な財産を持っている人はそれを守る権利と義務があると述べている。フランス革命で教会の財産が没収された?(まだ読めていない本の後半で詳しく書いているみたい)ことについて(フランスでは)「財産が不確実になるほど自由は完璧になる」とみなされているようだと皮肉を言っている。
身分制も肯定していて、国家の中でそれぞれの身分に役割があると考えている。その考えと裏表で自然権や平等に否定的。それゆえフランス革命で王とその家族が権力から追い落とされ投獄された一連の出来事については「人間としてふさわしくない不敬虔なこと」「この革命はまさに、感情と風習と道徳的な意見の革命にほかならない」などと評している。
”徳”という言葉が本当に何度も出てくる。P138に「第一の徳である深慮」とあり、P187「わたしの国の国民は革新というものには無骨なほど抵抗します」同「道徳について、わたしたちは新しい発見などしなかった…略…そういうことはわたしたちが生まれるずっとまえから理解されてきたことなのです。」とある。P198「すでに確立された教会、確立された君主制、確立された貴族制を、それが存在する程度に応じて、しかしその程度に限定して、維持しようと決意しているのです。」とも述べており、新しい思想に基づき国の制度をゼロから作り直すということを”愚か”なことと考えている様子。
以下の部分は、バークが批判し続けている”フランス革命礼賛派”の意見として引用されているのだけど、そんなに変なことを言っていないように見えるもの。代表制について、P122「『すべての合法的な統治の基礎であって、それなしには統治が簒奪になってしまう』そうです。そして『代表が部分的なものにすぎない場合、王国には部分的な自由が存在するにすぎない。代表がきわめて部分的なものであった場合、自由のたんなる外見が存在するにすぎない。代表がきわめて部分的であるだけでなく、代表選出法が腐敗している場合、それは有害なものとなる』というわけです。」
ここまで読んで、内容を整理してみての感想。 理念ばかりで主張が抽象的な政治家は良くないかも。政治家ってあらゆる問題について見識を持っていないといけないけど、実際は得意分野に集中して国会質疑や予算委員会への参加をしているので、得意分野は明確にあるべき。その得意分野についてはその専門家・実務家集団とつながりがあって、現実を知っていないといけない。現実を知らず、実務を担っている人とのつながりもなく理念だけ語っている人は頼りない。
また、バークのいう”徳”。保身からでも倫理感からでも、人としてあまりにも・・・な人物はだめだ。これを判断するのは自分の中の感覚。この感覚についてバークが書いていることが面白い。
バークの言っていることを参考にすると、まずバークは生まれが高貴な人は守るべき一族の名誉のために自然と、節度や責任感のある行動をすると考えている。また、そうでない、身分が低く教育を受けていないような人や社会について考えたことのないような人は、社会の慣行・伝統・制度に従い名誉ある人々を敬いつつ自分の生活範囲のことだけ真面目にやっていれば、全体として社会はうまく回ると考えているようだ。乱暴にまとめるので私の私見が混じるけど要するに、「国の統治は社会の”上澄み”にあたる人々に任せて、そうでない人々はどうせわからない・できないんだから現状を肯定しろ」ということで、次回まとめる予定だけど「宗教と教育」によって社会全体に保守的な先入観を抱かせることで、上澄みでない人々が社会の現状に不満を抱いたり、上澄みの人々が急進派になったりすることは防げると考えているようだ。 保守の黄金パターン!でました。別にバークの意見に賛同しないけど、これはこれで強い。やっぱ古典は面白いな。
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